そしてディランへたどり着く

先日、編集者の人とフジロックの話になった。

どれが良かったですか、と聞かれて、ケンドリックラマーとボブディランを挙げる。どちらもGREEN STAGEという一番大きなステージのアクトで、ケンドリックラマーは2日目、ボブディランは3日目のヘッドライナー*1だ。

ケンドリックラマーはすごく期待していたし、自分のパワーを寸分の狂いなく出し切るような圧巻のステージで、もちろんすごく格好良かった。でも、強く印象に残っているのはディランのほうだ。他のアーティストとはまったく違っていて、一番美しかったステージはどれか、と聞かれたら、間違いなくディランを挙げる。

 

GREEN STAGEは大きなステージなので、ステージ上にダンサーが大量に登場して踊ったり、映像や照明を使ったりして盛り上げることが多い。その中で、ディランはごくシンプルなオレンジ色の照明ばかりで、それらが華やかに明滅することもなく、淡々と奏者を照らしていた。

強い光を放たないステージは、かえって僕たちを自由にした。目を閉じて聞き入ってもいいし、ステージを取り巻く森の暗さを肌で感じてもよかった。

この日は台風の影響で風が強くて、日中に比べればずいぶん穏やかになったけれど、上空はまだ激しく吹いているようだった。ヘリノックスの椅子に背中を預け、すばやく流れていく雲を眺めていると、暗闇に慣れた目が無数の星を見つける。雲に隠れては、また姿を表すのを待つ。そうしているうちに、もっとたくさんの星が見えてくる。

 

今回に限ったことではないけれど、ディランは曲のメロディラインを大きく変えてしまう。声もしわがれていて、歌い方も違うので、何の曲をやっているのかわからない。僕もライブを見ながら友人たちとそんな話をして笑ったし、終わってからセットリストを見て、これやってたのか、と思った曲もいくつかある。

だけどそうして原型を留めない楽曲の中に、ふと知っている言葉や旋律を発見することがあって、それはまるで古い友人とばったり出会った時のようだと思う。深い皺があったり、太ったり痩せたりしてずいぶん変わっているのだけど、どこかに面影があって、その人だとわかるような。

そんな比喩を使えるほど、長く生きてはいない。でもそういう表現を使いたくなるような、長く生きた人だけが知る人生の美しさが、たしかにあった。

その美しさは、若者にとって、本当はまだ秘密だ。でも、伏せられたカードをそっと見せてもらうように、それを知った。

 

バイオリンが黄金のリボンのような音色を奏でる。まったく変わっているのに、どうしてかそれが「風に吹かれて」だとわかる。「How many roads must a man walk down...」しわがれた声が歌いはじめる。

 

*1:実際はヴァンパイア・ウィークエンドがそのあとにライブをやったのだけど、実質的にはディランで間違いない