Kylie Minogue『Golden』感想、あるいは年齢を重ねることを恐れない人

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まだ冬のうちに公開された「Dancing」を聴いて、ノスタルジックなギターの音に惹かれた。どんなアルバムになるんだろう、と楽しみにしていたカイリー・ミノーグの新作『Golden』を、春の夜らしい涼しさの中で聴く。

カントリーテイストを取り入れたダンス・ポップには、これまでのような眩しさはないけれど、それでも彼女らしいきらめきが音の中に散りばめられている。歌声も艶がありながら、時折深みのある表情を見せる。落ち着いているけれど、そのぶん広い視点で人生を振り返り、そしてこの先を見つめているように感じられる。

人生やノスタルジーを持ち出したくなってしまうのは、単なるカントリー・ミュージックのマジックなのかもしれない。でも、その魔法もカイリー本人にその気がなければ起こせないだろう。

 

女性であることを謳歌しながら、年齢を重ねることを恐れない。生き続けることで、若さとは違う価値が芽吹いてくるのを信じている人。最近のカイリーには、そんな印象を抱く。まず、2012年にセルフカバーアルバム『The Abby Road Sessions』を発表。オーケストラを従え、過去のクラブヒットをフォーマルにドレスアップさせるとともに、長く歌い続けられるリアレンジになっていた。ある意味今作『Golden』も、若々しさに頼らないという点ではこの試みと地続きだろう。

では、2014年のアルバム『Kiss Me Once』はどうか。ここでカイリーはかつてのように、セックスシンボルとしての扇情的な表現を展開している。この作品は「この年齢にもなって性愛のことばかり歌っているのは軽薄」と、レビューサイトや音楽誌からは否定的な声もあったと聞くのだけど、性愛について若者しか歌ってはいけないというのはすごく表層的だし、そもそもたまには性愛のことばかり歌ったっていいじゃん、とも思う。

 

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それにカイリーの場合は、その表現が必ずしも若者のためのものではない。「Sexercize」のPVでは鞍馬やバランスボールを使ったエロティックなエクササイズをする姿が映されている。これは奔放さではなくて技術や体型の維持によって快楽を得ようとするもので、当時40代半ばだったカイリーがやるからこそ意味があるもののように思う。同じく性愛を歌った「Les Sex」もビートがスポーティーで、いやらしさが少ない。

余談だけど、このあたりは同じくアイコンとして比べられることも多いマドンナとは対照的だと思う。マドンナが2015年に発表した最新作『Rebel Heart』には、彼女はニッキー・ミナージュをフィーチャリングした「Bitch I'm Madonna」という曲があったり、「S.E.X」という曲に喘ぎ声を入れたりしている。カイリーがレディに転身したのに対し、マドンナはビッチであり続けているのだ。それはそれでパワフルで良いのだけど、若さに固執している感じもして、見ていて苦しくなることもある。

 

とはいえ、カイリーも最初から加齢を受け入れたわけではなかったようだ。調べる中で、カイリーのボトックス注射に関する記事を見つけた。

https://news.walkerplus.com/article/107811/

ちょっとタイトルやニュアンスがひどいのでリンクしたくないのだけど、参照元を貼らないのも嫌なのでURLだけ貼っておく。記事によればカイリーは2009年にエル誌のインタビューで「若くいたいならボトックスでもなんでも試してみればいいと思う」と発言。しかし2010年には「今はボトックスはやっていない。もっとナチュラルな方法に頼るようになった」と言っている。そして2017年の春にはThe Australian誌で、「エンターテイメント業界にいるプレッシャーから、過去にボトックスを過剰に使用してしまったことを認めざるをえない」「昔と同じような感覚でランジェリーのコマーシャルにでることはないけれど、年齢でファッションを制約したくない」と語ったという。

とにかくカイリーが劣化した、という方向に持っていきたがっているゴシップ記事だけど、この「昔と同じような感覚でランジェリーのコマーシャルにでることはないけれど、年齢でファッションを制約したくない」という発言、前後の文脈はわからないけど超かっこいいのではないか。年齢を受け入れながら、若々しくい続けるのを諦めないことはできるし、籠城戦のような美との付き合いから自由になった人は、とても気品があると思う。そのステージを降りることは敗北ではないし、むしろ降りた者から新しい地平を開いてゆける。その姿を、カイリーはまさに「Dancing」のMVで体現している。


Kylie Minogue - Dancing (Official Video)

 

『Golden』のタイトルトラックには、こんな歌詞があった。

”We're not young, and we're not old

We're the stories not yet told

Won't be bought and can't be sold

We are golden”

「私たちは若くない、でも年寄りでもない/私たちはまだ語られていない物語/買われることも売り渡されることもない/私たちは輝いている」。年齢を重ねることは人生を背負うことでもあるし、そうするからこそできる輝き方もある。カイリーの新しい物語を祝福したい。